不測の事態

本来であれば、クリニックの設計ポイントの続きをというところなのですが、今回は特別編としまして年末に起こったある出来事について書きたいと思います。
今年も多くの先生方との出会いがあり、ご縁があった先生方の開業をお手伝いさせて頂きました。
何とか開業までこぎつけ、予想よりはるかに良いスタートを切る事ができたクリニック、出だしは寂しかったものの着実に患者数を伸ばしているクリニックなど様々でした。そんな中で年内に物件が決まり来年開業を迎える先生方もいらっしゃいます。
その一人、年明け1月の中頃に開院を控えた先生がいらっしゃいました。先生の希望する場所で物件が見つかり、資金の借り入れや内装、スタッフの面接など比較的順調に準備が進み、あとは細々とした電子カルテシステムのチェックや、面接したスタッフに合格通知を出し研修をして万全な開院を迎えれるようやっていきましょうという段階でした。
ギリギリまで勤務を続けながらの準備で大変な部分もありましたが、奥様が協力的して下さり、何よりも先生が一番楽しみにされている様子で、お手伝いしている我々としましても嬉しくなる程でした。
12月の中頃、その日も銀行融資の実行手続きで銀行に同席し色々な手続きのお手伝いをしておりました。手続きの合間、銀行の支店長も交え、先生が実はかなりの健康家で家庭菜園は勿論、自家製のパンやビールまで作っているという話をお伺いし、ますます先生との距離を近くに感じ、満足のいく開業ができるよう少しでも貢献したいと思っておりました。
その夜事故がありました。翌日の朝一で先生の奥様から悲愴な声で電話があり「昨夜、食事の後準備の為にクリニックに自転車で向かう途中に転倒してしまい、打ち所が悪く首の神経にダメージを受け現時点で足が動かない状態です。一体どうしたら良いでしょうか。」と後半は涙声でした。瞬間、私の頭も真っ白になりましたが、ここで冷静にならなければと奥様を励ましつつ、関係各所へ連絡したり、面接したスタッフへ事情を記した文章を作成するなどの対応をしました。私が病院に駆けつけた時は先生のお顔ははれ上がり口の中もボロボロでしたが「迷惑を掛けちゃって本当にゴメンね。俺も悔しいよ。」との話を聞いた時には、さすがに涙をこらえる事ができませんでした。不幸中の幸いで意識はしっかりしており、命に別状はなかったのですが「失った物が大きすぎて今は何も考えられない。」しきりに「ゴメンね、ゴメンね、申し訳ない。」と繰り返し明らかに大変なショックを受けている先生に「大丈夫ですよ先生、最善の対応ができるようお手伝いし続けますので、今はゆっくりと療養して下さい。」と励ますのがやっとでした。
入院や生活面は先生が入っておられた生命保険の特約でカバーできますが、かなり早い段階で紹介したクリニックの休業補償・所得保障などが付いた損害保険については「1月に入ってからでいいでしょう。」との話に同意し、強く勧めなかった事が今になって悔やまれます。
クリニックの内装や医療機器の搬入も済んでおり、空けておくのも勿体無いので、どなたかドクターを雇ってでも始めたものか、継承になる事まで視野に入れ考えておりましたが、昨日お見舞いに行った時には奥様の献身的な看病の甲斐もあって、お顔の腫れも引き、足もなんとか動く事がわかり希望の光が見えてきました。何よりも先生の気持ちが折れず、前向きでいてくれる事が関係者を喜ばせています。スタートは予定より少々遅れる事になりますが、なんとか体勢を立て直し再出発ができるようお手伝いしていきたいと思っています。

開業を考えておられる先生方へ、今回の一件で、オーナーや不動産屋、処方箋を受けてくれる予定だった調剤薬局、保健所や社会保険事務所、銀行にリース会社、医療機器業者、検査会社、進行中だったサイン看板の業者やスタッフ・・・多くの関係者に連絡をし対応を検討しました。奥様の方でも保険会社や会計事務所に連絡を取って頂き、ずいぶんたくさん方々と係わる事を改めて感じました。
このような不測の事態はどなたにも起こり得る事だと思います。
そうならないよう日頃注意する事は勿論ですが、早い段階で保険に入っておく、奥様やご親族の方に開業の進捗をご理解してもらっておく、または我々のようなコンサルタントを付けて開業に望むなどの対応は大切な事だと思います。
今回のコラムを読んで頂き、一人でも参考にして下さる方がいるといいなと思いながら年の瀬にカチャカチャしております。
皆様にとって2008年が良い年でありますように。
コンサルタント碇

2007-12-31