「物件の選定について②」

今回は前回に引き続いて選定した物件が開院に支障があったお話になります。

②土地、建物を購入した案件

ある開業を検討していました先生から既存の物件(土地、建物)を購入したので具体的なレイアウトと見積を作成して欲しいと連絡がありました。建物は地上3階でエレベーターを設置して1、2階をクリニック、3階を院長室や休憩室等のバックヤードにしたいとの要望でした。エレベーターを設置する場合は確認申請が必要となる為、建物の調査を行ったのですが、ある問題が発覚しました。

現在の建物は地上3階建てなのですが、建築当時の確認申請書では地上3階、地下1階で届出が出ており、現状と相違がある状態だったのです。

通常は新築の建物の場合は建築前に形状や規模、構造の設計図を作成して検査機関に申請をします(確認申請)。問題がなければ建築許可がおり、建築確認通知書が交付され、建築工事に入ります。工事中は施工記録をとり、中間検査を受けて申請図面通りに施工がなされているかの確認を受けます。建物が完成した際には完了検査を受けて完了検査済証が交付されます。

今回の建物について建築確認や登記簿を確認したところ、確認申請通知書は交付されていましたが、その後の変更に関しては届出を行っておらず、完了検査を受けていない建物という事がわかりました。

現在の建物に対して大規模な修繕や模様替え、用途の変更、エレベーター等の建築設備を増設する場合には確認申請が必要となり、現在の建物に対しての法令や構造の検証となります。完了検査を受けて完了検査済証が交付されている建物の場合はその書類をもとに検証をするのですが、今回の場合は完了検査を受けておらず、その上申請内容と異なった建物となっており、現在の建物の状態を証明する書類が無い事になります。

建物の保証書とも言える完了検査済証が無い建物の場合、現在の建物がどのように建築されたかの調査が必要となります。確認申請時の図面と比べて地下が無く、部分的な軽微な変更ではありませんので、建物全体を調査して新たに建物の設計図を作成する事になります。構造体や基礎、鉄筋の太さや本数などの調査も必要となります。目視できる階段や天井の高さは測量ができるのですが、鉄筋や基礎の状態の調査には部分的な解体やX線検査等が必要となります。その後作成した図面をもとにやっとクリニックとして使用する為の工事に対しての役所との協議となります。

文面も長くなってしまいましたが、調査も長期間に渡りますし、部分的な解体をした場合には建物への影響も懸念されます。調査には費用もかかります。もちろん土地や建物の購入にも大きな費用が発生しています。ここまで費用を掛けてからやっとクリニックのレイアウトの打合せが進められるという物件でした。

結果、無許可、無申請で工事を行う業者がいるとの事でお話を受けなかったのですが、その後が気になって現地を見てみましたが、半年以上も何も手つかずの状態でした。

いい物件に巡り会えるかは縁を大事といいますが、その物件が本当に縁のあるものなのかを色々な方に色々な方面から検証していただいた方が良いでしょう。思い立ったが吉日とも申しますが、まずは物件の購入に動かれる前に色々な方に相談をしてみるといった行動に動かれた方が良いでしょう。

前回から2回に渡り開院に支障があった案件についてのご説明でした。あまり良い方向のお話ではありませんでしたが、物件選定のお役にたつようでしたら幸いです。
クリニックの設計士屋さん

2016-06-30