眼科クリニック内装設計のポイント

眼科クリニックに必要なスペースとは

一般の眼科クリニックの主なスペースは下記に挙げられます。
・待合室
・受付
・診察室
・検査室(明室、暗室)
・処置室
・消毒室
・フィッティングスペース
・トイレ
・医局スペース(院長室、職員休憩室、収納等)
・手術室(白内障や緑内障のオペを行う場合)
・リカバリー室、更衣室(手術室を設ける場合)

必要なスペースについては、どのような診療方針の眼科クリニックを開設するかによって変わります。

眼科クリニックの診療方針が設計に与える影響

ひと口に眼科クリニックと言っても診療方針によって特色が変わってきます。
一般の眼科疾患の診察を行い、子供から成人、高齢者の患者様を対象にするクリニックや、それに加えて白内障や緑内障の日帰りオペを行う場合、もしくはオペをメインに考える眼科クリニックもあります。
他にも眼鏡やコンタクト等の医療機器販売対応をメインに考えている眼科クリニックもあります。
どのような診療方針のクリニックにするかによって、開院する地域や立地、スペースも異なります。
一般の眼科であれば35から40坪程度が多いでしょう。
手術を行う場合はプラス10-15坪程度が必要になります。
開院を考えられる際はクリニックの特色や診療方針を含めて場所はもちろん広さなどを検討する必要があります。眼科の待合室・受付の設計について
待合室や受付については他の診療科目と大きく異なる部分はありません。
患者様やスタッフの人数、受付の機器の配置、待合室の管理を含めて広さを設定しましょう。
※手術を行う場合は付き添いの方の待合スペースも必要になります。
曜日や時間を決めて一般外来と分ける場合は待合室を併用できます。

検査室(明室)

他の診療科目とは異なり、眼科は診察の前に眼の状態を調べる検査が必要となります。
主には眼の機能測定や視力測定となり、測定後に診察室に向かいます。
ここでの眼の検査は明室(明るい部屋)で行い、検査機器を使用してスタッフが行います。
眼圧や屈折状態を測定するオートレフケラトメーター等は約45㎝×45㎝の台に乗せてスタッフと患者様が対面に座り検査を行います。
機器を並列に配置して患者様の移動をスムーズにしたり、L型に配置して患者様が回転して機器に向かう等(スタッフの移動距離は長くなりますが…)、動きやスペースに合わせて配置を計画しましょう。
視力検査は一般的に遠見視力の測定となります。
測定距離は5m、3m、1mのタイプがあります。
ひと昔前は5mタイプの視力表を並べていましたが、スペースを必要とする為、近年では1mタイプを導入して5mと1mでの測定を併用するクリニックが増えています。
患者様をお待たせさせないように同時に何名の検査を行うかを検討して機器の台数、スタッフの人数を設定しましょう。
検査前にコンタクトレンズを外せるように検査室にはコンタクト脱着のコーナーを設けた方がいいでしょう。
その他レンズメーターやレンズセット等、色々な機器が検査室には必要となります。
明室の検査室は眼科クリニックの中で待合室と並んで広いスペースになります。
今後の診療内容の拡張に伴う機器の増設は検査室(明室、暗室)や診察室に導入する事がほとんどです。将来的な拡張も検討してできるだけ余裕を持ってスペースを設定しましょう。

そして眼科機器はコンセントが必要なものがほとんどです。
こちらもスペースと合わせて将来的な拡張も検討してコンセント、LAN配置も設定しましょう。
ただし、前述したように眼科機器は台に乗せてスタッフと患者様が向かい合う為、壁沿いではなく、部屋の中央部分に配置する事が多くなります。
可能であれば床下での配線計画とし、床面から飛び出さないタイプのコンセントが良いでしょう。
物件の状況により床下での配線計画が難しい場合は壁面からの配線となりますが、動線を確認して患者様の通らない経路としましょう。

診察室

一般的にはドクターデスクとスリットランプ、可動式のスライディングテーブルを使用します。
眼底カメラ等のその他の機械は診察室内でどこまでの検査を行うかを検討して配置や広さを設定しましょう。
開院当初ではなく、将来導入を含めてゆとりのある広さを確保したいところです。
「暗さ」を含め、照明計画としては調光式の照明を設け、明るさを調節できるようにしましょう。
「どうせ暗くするから…」と照明を少なく希望される先生もいらっしゃいますが、術前後の説明やメーカーや業者との打合せを行う際は明るくしますので、一般の明るさも確保できるように計画した方が良いでしょう。
なお、照明のスイッチはスライディングテーブルと同調させて可動時に自動的に照明がOFFとなるようにする事が多いかと思います。
方法としては階段の上下でON・OFFできるような3路スイッチを設け、片方をスライディングテーブルに接続します。
もう片方のスイッチはドクターデスク上に設けて診察中に手元で照明のON・OFFをできるようにした方が良いでしょう。

検査室(暗室)

診察室と同様に暗くして検査を行う部屋になります。
OCTや視野計、レーザー等こちらも将来追加の機械の導入の可能性を考慮して広めに計画したいところです。
検査室(暗室)の中でも遮光カーテン等で区画して検査機器ごとのスペースを設けて同時に複数の検査を行えるようにした方が良いでしょう。
照明もそれぞれのスペースで単独にON・OFFや調光ができるようにしましょう。
空調に関してはそれぞれのスペースに1台ずつのエアコンの設置は難しいですから検査室全体で1台として、なるべくムラのない配置を検査しましょう。
先にも記述しましたが、眼科クリニックで将来検査内容の充実、拡張を検討する場合には検査機器を増設する事が多くなります。診察室や検査室(明室・暗室)に拡張性をもたせて計画した方が良いでしょう。

手術室

一般的な眼科の手術は基本的に視野機能の回復や維持が目的となります。
手術以外に回復の見込みが無い場合や緊急性が高い場合に手術を行うことになります。
一般的な眼科クリニックの場合、緊急性の高い症状(外的要因や網膜剥離等)の患者様は少なく、基本的には視野機能の回復や維持を目的とした手術となります。
一般的な眼科クリニックで行う手術としては、白内障、緑内障、網膜症や斜視、黄斑変性のレーザー治療が挙げられます。
施術によっては入院も必要となりますので、どこまでの施術を自院で行うかを決めておきましょう。

手術室の仕様

当然ながら手術室には清潔さが求められます。
簡単な外科的処置であれば、通常の清潔度の処置室で行う眼科クリニックも多く見られますが、近年の院内感染への注目度を考えますとあまりお勧めはできません。
患者様としましても安心と安全は第一前提にしておりますし、もし感染症が発生してしまいますと、クリニックへのダメージも計り知れないものになります。
リスクを回避する上でも手術室は清潔に保たなければなりません。

清潔度(クリーン度)

手術室の清潔度(クリーン度)ですが、基本的には空気中の塵やゴミの数量によってランク分けされます。
1立方フィートの空気中に0.5μmの微粒子がどのくらいあるかで表現します。

・100個以下 クラス100
・1000個以下 クラス1000
・10000個以下 クラス10000
・100000個以下 クラス100000

とするNASA基準が多く使われています。
一般的な眼科クリニックではクラス10000を目安としている所が多くなります。
では、クラス10000のクリーン度を保つ為にはどのような仕様が必要になるかを説明します。
こちらも大きくわけますと空調設備、室内の仕上材、その他の付帯設備が挙げられます。

①空調設備

他のスペースと比較して空気を清潔に保たなければいけませんので、空調設備も特別なものになります。
多くは空気清浄機能付きのクリーンエアコンを設置して室内の空気をHAPAフィルターで濾過し、塵やゴミを除去します。
クリーンエアコンの仕様によっては天井給排気、壁や床や天井を経由する方法もあり、部屋の作り方が変わってきます。
ひと昔前はある1社のクリーンエアコンが普及していましたが、クリニックレベルの機種が特注となってしまったりして、他社のものも選定されています。
メーカーではなく、機種の仕様やランクで選定した方が良いでしょう。
また、手術室内は陽圧に保ち、他の部屋の空気が入らないようにしましょう。

手術室内の仕上

手術室の室内は塵やゴミが溜まりにくい素材が求められます。
床は抗菌性のビニル系の素材が一般的ですが、抗菌材を配合した樹脂系の塗床材もあります。
壁や天井も防塵クロスや化粧ケイカル板が多く使用されます。
基本的には塵などが付着しにくい素材で抗菌性の高いものになります。
また、できるかぎり塵が溜まらないように棚などは壁に埋め込んで段差を無くすようにしましょう。

手術室におけるその他の付帯設備

空調設備や仕上材以外にも注意が必要な設備があります。
入口は自動ドアにして消毒後の手を触れないで入室できるフットセンサーや埃が溜まりにくい照明器具、手術室前の準備室や消毒室の仕様、術前術後の説明や回復スペースなども関連して考慮しなければなりません。

2020-12-11