事業計画書の作成のポイントと重要性
医院の開業場所が決まると重要な事業計画の策定、つまり事業計画書を作成します。
事業計画書は主に融資元の銀行等に提出する資料にもなりますが、開業後の医院経営の道標としても重要な役割を持ちます。
先生ご自身も納得のいく計画書を作成することで、クリニック開業における全体像が見えてくると思います。
事業計画書の主な内容
・開業地の概要
・医院の経営理念
・開業時の必要使途計画
・開業後の運転資金計画
・開業後の収支のシミュレーション
・借入金の返済計画書
いくら借入をするのかを決める際に重要なのが、上記の必要使途計画ですが、ビル診療の場合では、主に次の費目を積算します。
・テナント入居資金(保証金や礼金、仲介手数料など)
・内装工事費(看板サインの作成費なども含む)
・医療機器や什器備品の購入資金
・広告宣伝費、求人広告費
・医師会入会金
・開業コンサルタントフィー
・運転資金
・予備費 等
ここで重要なことは運転資金を含めて、十分な額の融資金額を確保することです。
なぜなら金融機関は開業後の追加融資には慎重な姿勢を示すからです。
つまり借りにくいといえます。
そこで十分な資金を開業前に準備しておき、医院経営の安心材料として確保しながら、医院経営が順調になってきた際に、繰り上げ返済をすれば良いとお考えください。
たまに少ない融資金額にしようとされる先生がおられますが、真逆の考え方と言えます。
支出についての基本的な考え方
事業計画を作成する基本ですが、収入は少なめに支出は多めに見積もっても事業が成り立つかどうかを見極める事がポイントになります。
先に支出を出来る限り具体的に計上し、一日にどれくらいの患者数がくれば成り立つかという損益分岐点を割り出す事ができると思います。
その場所や各種条件で損益分岐点を越える患者数を診れる自信があれば進めても良い計画だと思いますが、その自信がなければ考え直した方が良いでしょう。
また先生とご家族の生計費や資金計画の段階では想定していなかった思わぬ出費、立ち上がるまでに時間が掛かりそうな事が予想される場合などの為に予備費としてある程度、運転資金を確保しておきたいところです。
全体の資金の1割程度の資金を目安として設定する場合が多いようです。
借り入れ資金も多すぎると返済が大変になりますが、確実に必要ないと判断できる状況になってから繰り上げ返済をすることをお勧めします。
以下に漠然としがちなクリニックの運転資金や開業後の収支シミュレーションについての考え方を示します。
クリニック開業における運転資金とは
事前の運転資金確保の重要性
開業前の準備期間や開業後の窓口入金だけで健康保険収入のない約3ヶ月間も当然、固定費(家賃や人件費、院長自身の生活費など)はかかります。
これらの運転資金と設備資金では金融機関としては貸し出す条件が異なり、設備資金の方が返済期間が長く、場合によっては金利も優遇されています。
逆に運転資金は返済期間が短く設定されるケースが多いです。
そこで先生自身の自己資金は開業後の運転資金として確保しておき、条件面で有利な設備資金の方に借り入れ資金を大きく割り当てる方が得策となります。
運転資金の設定方法
では運転資金の設定はどうしたら良いのでしょうか。
まず大きいところで考えますと人件費があります。
保険収入の入ってくるまでの約3ヶ月間分の給与と開院前の研修中に発生する給与(約2週間前後)を合算し、おおよそ3ヶ月半〜4ヶ月ほどはみておきたいところです。
さらに水道光熱費や税理士等への顧問料、駐車場代等の経費も同じくらいの期間を見ておいた方が良いでしょう。
また、テナントの場合は遅くとも内装工事に着工してからは賃料が発生するでしょうから、その期間も足して考えておかなければなりません。
また設備資金などの融資も受けますので、その返済(通常、当初は元本据え置き)やリース料も発生してきます。
これらは借り入れの場合、1年間の据え置き制度やリースの場合のスキップの制度を確認してやはり開業後4か月分くらいは大きな返済の猶予を検討しておいた方がよいでしょう。
開業後の収支シミュレーションの考え方について
医院開業後、5年間ほどの収入と支出を予測し、最終的に表にして余剰金がでる計画かどうかを確認します。
収入について一番肝心で、難しいところが一日の来院患者数をどれくらいで見込んでいくかという部分です。
もちろん事前の診療圏調査で出る数値を目安にしながら、周辺の競合機関の来院患者数、物件の立地条件や標榜する診療科目を考慮し、その数値を決めていきます。
どんなに診療圏調査で良い数値が出たとしても初日から100人も来る計画を立てたのでは、金融機関からも、この経営者はずいぶんといい加減だなという印象を持たれてしまいますし、謙虚すぎる数字ですと融資の返済が滞ってしまうのではないか、と不安視されてしまいます。
診療圏調査の来院患者数とシミュレーションの考え方(内科の場合)
例えば一般的な立地条件で比較的立ち上がるまで時間の掛かる内科を例にします。
診療圏調査で50人ほどの来院患者数が見込めるところであれば、5年目あたりにその数値を設定し、初年度はその半分以下の22人、2年目で医院の認知度が上がり、10人増えて32人、3年目で口コミも手伝い8人増えて40人、4年目で患者数も安定してきて6人増え46人、そして5年目で4人増え50人。といったように一直線に増患するのではなく、なだらかに逓増していくような計画が現実的だと思います。
もちろん継承の物件や立地的にとても目立つ場所だったり地域的に需要の高い診療科目であったりすると、その予測の立て方も変わってきますので難しいところです。
ただ、待合室に椅子が少なかったり、完全予約制などにすると、当然に外来患者数に自ずとブレーキがかかりますので、そのあたりを注意して予測を立てる必要もあります。